ヨルダン

ヨルダン

シリア周辺国の一つであるヨルダンは、多くのシリア難民の避難先となっています。2017年末時点でのシリア避難民数は約550万人。ヨルダンでは約65万人のシリア難民を抱えており、その数はヨルダンの人口の約10%に相当します。*

JENはイラク事業の拠点として2003年よりヨルダンの首都アンマンに事務所を構えており、シリアから難民が流出し始めた2011年当初から状況を注視していました。2012年7月、ヨルダン・シリア国境近くにザータリ難民キャンプが開設されたのを受け、JENは、キャンプとホストコミュニティ(難民キャンプ以外の難民受け入れ現地コミュニティ)において、シリアから避難してきた人びとへの緊急支援を開始しました。

ピーク時には13万人もの難民が暮らしたザータリ難民キャンプでは、水衛生環境の整備を担当する統括団体のひとつとして、給水や上下水道の整備から、コミュニティ強化までを担いました。一方、難民の80%近くが暮らすホストコミュニティでは、シリア人児童を受け入れることにより公立学校の生徒数が急増し、教室やトイレの数が不足、施設の酷使による学習環境の悪化が問題となりました。この緊急事態に対応するため、公立学校の水衛生施設の建設・修復などのインフラ整備と衛生促進活動を行いました。2018年7月末にJENの活動は終了し、事業を他団体に引き継ぎました。

*出典:Jordan INGO Foram Syrian refugees in Jordan 2017年12月末時点
https://reliefweb.int/sites/reliefweb.int/files/resources/JIF-ProtectionBrief-2017-Final.pdf

ホストコミュニティに対する支援 (2012年10月〜2018年7月)

学校施設および水衛生設備の増築・補修

水衛生設備の建設および学校建設の補修(ホストコミュニティ)

JENは、多くのシリア難民の生徒を受け入れているヨルダンの全12県の公立学校を対象に、教室の増築およびトイレや手洗い場などの水衛生施設の増築・補修、児童数の増加によって酷使された既存施設の補修を行いました。不衛生な学校のトイレは、特に女子児童の不登校や早退の原因となっていました。学校のトイレの衛生環境を整えることで、子どもたちが安心して通学し、学習に取り組むことができるよう支援を行いました。

水衛生設備の建設および学校建設の補修(ホストコミュニティ)

また、ヨルダンの水事情を鑑み、学校で子どもたちが手を洗った排水を再利用する仕組み作りにも取り組みました。

衛生教育

衛生教育(ホストコミュニティー)

水衛生施設の整備と同時に、正しい衛生習慣を身につけることも大切です。公立学校における水衛生設備の不足や損傷等により就学する子どもたちの水因性疾患による健康被害が懸念されるため、疾病予防のための石鹸を使った手洗いや、基礎的な口腔衛生、食品衛生、学校環境衛生の意識向上や生活習慣の改善に重点を置いて衛生教育を実施しました。

JENでは、まず教員に対して衛生教育を行い、教員が生徒に衛生指導をし、生徒は衛生促進のためにクラブを作って教員と共に全校生徒に促進活動を続けることで、学校全体、ひいてはコミュニティ全体への衛生知識・衛生習慣の普及を目指して活動していました。また生徒たちに石鹸、歯ブラシ、歯磨き粉、ハンドタオル等の衛生キットを配布し、家庭と学校で石鹸を使った手洗いや歯磨き等を実践してもらいました。

さらに、水衛生施設の正しい使い方と清潔に保つ維持管理方法、また水保全についても指導を行いました。

ヨルダン国教育省および国連の水・教育支援分野へのサポート

ヨルダン国教育省および国連の水・教育支援分野へのサポート (ホストコミュニティ)

ヨルダン国内には、約3,681校の公立校があります。そのうち水・衛生の支援を必要とする学校は半数以上に上り、JENは2012年10月から2018年7月まで400校以上に対して支援を実施してきました。

水衛生に関しての全国ニーズ調査をユニセフと実施し、水・衛生セクターで活動する支援団体が全公立校の水衛生環境の状況を分析し活用できるよう、情報管理ツール(デジタルダッシュボード)を作成しました。

ザータリ難民キャンプにおける緊急支援(2012年9月〜2018年3月)

 

2012年7月29日、戦火を逃れシリアの人びとがたどり着いた隣国ヨルダン北部のマフラック県に、面積5.3km2(東京ドーム約112個分)、12もの地区があるザータリ難民キャンプが設立されました。開設当初2万人弱だった人口は、瞬く間に13万人にまで膨れ上がりました。しかし、この場所は土漠であったため夏は灼熱の日差しを遮るものがなく、冬は雨や雪の降る中気温が氷点下にまで下がります。広大な土漠に年間を通して吹く強風がもたらす砂埃も、難民の生活や健康に影響を与えます。人びとは、このように過酷な気候条件の中で暮らすことを余儀なくされていました。その上、ヨルダンは世界で最も水が少ない国の一つです。難民受け入れでも、恒常的な水の確保が重要課題になりました。
JENはキャンプ設立当初から活動を開始し、主に水衛生分野での緊急支援活動を続けてきました。ザータリ難民キャンプでは世界中からさまざまな支援団体が活動を行ってきました。キャンプ設立から7年が経ち、キャンプ内で活動する支援団体の合理化をすることになり、JENは他団体に活動を継承し、2018年3月に活動を終了しました。

水衛生環境の整備とコミュニティ強化(2012年9月~2018年3月)

水衛生環境の改善とコミュニティ強化

もともと水資源の少ないヨルダンでは、難民数の急増などにより一人当たりの水の供給量が減少し、難民キャンプ内においても住民に均等に水が行き届くよう供給するのが困難でした。不平等な水の供給は、人びとの間で不公平感を生み大きな不満にもつながります。そのため、水問題の解決は喫緊の課題でした。JENは、水衛生分野の統括団体のひとつとして他の国際NGOや国際機関との連携し、配水状況をモニタリングするなど、キャンプ内の水関連施設のメンテナンスを行ってきました。

水衛生環境の改善とコミュニティ強化

2013年10月からは、人びとが安全な水に平等にアクセスできること、また汚水による衛生環境の悪化を防ぐことを目指し、キャンプ内の上下水道整備のための大規模なインフラ構築を進めました。また、キャンプの長期化に伴い住民が共同で使用するために設置した公衆トイレから、戸別トイレに移行することになり、自力での建設が困難な世帯1,776世帯を対象にトイレ建設を行いました。

衛生促進活動(2013年10月〜2018年3月)

衛生教育促進事業

住民が正しい衛生知識を取得し、主体的に衛生習慣を実践していくことは、感染症の予防等の観点から重要です。JENでは、手洗いの大切さ、学校で流行するシラミ防止、口腔衛生等をテーマに、キャンプ内の住民で構成されるコミュニティ衛生プロモーターによる衛生セッションを実施しました。また、住民の半数以上を占める17歳以下の子どもたちが楽しみながら衛生について学べるよう、子どもたちを対象としたセッションやイベントも定期的に実施しました。

メディア・プロジェクト(2016年5月〜2018年3月)

キャンプでは、社会・経済的な理由で、住民の50%以上を占める17歳以下の若者の教育へのアクセスが限られています。また、キャンプ内で収入を得ようとしても、仕事の数や職種が限られています。閉鎖的な難民キャンプでの生活が長引き、若者は無力感や倦怠感、将来に対する不安を募らせていました。そこで、JENは若者を対象にジャーナリスト育成訓練と実践の場を設けました。これには、300人を超える若者が製作の全工程に携わりました。将来、母国シリアに戻った際には夢を現実にし、ジャーナリズムを通じて国の復興を担ってもらいたいと願っています。

THE ROAD

雑誌「The Road」

:雑誌「The Road」(2014年10月~2018年3月)

ザータリ難民キャンプ内の移動手段は限られています。12地区の住民同志が交流する機会の創出や、支援団体からのサービスやイベント等の情報を全住民が同時に得ることは非常に困難で、そのため情報の格差が大きな課題でした。

雑誌「The Road」

JENは、住民が必要な情報を必要な時に得るための媒体の提供だけではなく、読者である住民からも情報を発信できる仕組みとして、キャンプ内の若者が制作に携わるアラビア語の月刊誌「Al Tarik (The Road)」を創刊しました。

 

THE ROAD × クーリエ・ジャポン

:動画「IN TRANSIT」(2016年5月~2018年3月)

動画「IN TRANSIT」

ジャーナリストやカメラマンになる夢を抱いた男女15-25歳の若者が、製作チームに参加しました。

動画「IN TRANSIT」

彼らは、難民一人ひとりのキャンプでの日常生活を、様々な角度から切り取り映像化し、インターネットを通して世界に伝えました。

 

コミュニティの構築と共助のしくみ(2017年5月〜2018年3月)

 

キャンプ設立から5年以上が経過し、住民の間で生活状況の格差が広がっていることが大きな課題になりました。ひとり親や子だくさんの家庭、高齢世帯、障がい者が複数いる家庭等、家族構成は様々です。中には、就労支援を利用したくても困難な世帯があります。そこでJENは、脆弱な立場にある方をコミュニティの中で支える仕組みづくりを行いました。「わたしの家族ともうひとつの家族」というプロジェクトでは、難民の方が他の難民の方を支援しました。技術研修を経た女性グループ(延べ139人)と男性グループ(3人)が擦り切れたマットレスカバーを作ってプレゼントしたり、老朽化が進む住居の簡単な修繕をおこないました。こうして280世帯を支えることができました。

公立学校における水衛生施設の修復・補強および衛生教育促進事業(2013~2014年)

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シリアにおける抗争の影響を受けて、難民キャンプの外にも、ヨルダン国内にはたくさんのシリア難民が流入しました。知人や親せきを頼って避難している人がたくさんいます。避難してきたシリア人の子どもたちは、ヨルダン国内の公立学校に通い始め、学校の生徒数が急激に増幅しています、また、学校の施設が増加した生徒数に対しキャパシティ不足に陥っており、対応できていない状況が各地で起きています。特に、もともと貧困地区にある場合や、予算の限られた公立小学校では、受け入れ生徒数の増加に対応するのが難しい状況にあります。

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そこで、2013年にシリア難民を多く受け入れているヨルダン国内のアンマン県、マフラック県、イルビット県、ザルカ県、マーン県の5県の公立小学校約500校に対するニーズ調査を行い、その中でも緊急に対応が必要な状態にある小学校150校に対して、特に貯水タンクやトイレの増設などといった衛生施設の補強を中心とした学校修復および、教師や生徒に対する衛生促進活動を行っています。2014年はさらに事業地を増加し、教室の増設およびヨルダン全土の公立学校のニーズ調査を実施しました。

衣料品配布事業(2012年~2014年)

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2012年~2014年に、ヨルダン北部のシリアとの国境付近に位置する難民キャンプおよび、シリア難民を受け入れているホストコミュニティーにおいて、衣料品を配布しました。配布時には、家族構成に応じた衣料の詰め合わせバッグを準備し、住民と協働して配布を行いました。

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<配布実施内容>
(1)2013年10月~12月:ザータリ難民キャンプおよびヨルダン国内のホストコミュニティーにて、約60万着を配布、寒波が訪れる直前に完了し、住民の越冬準備に貢献することができました。
(2)2014年:新たにザータリ難民キャンプに到着した難民63,816名に配布しました。
(3)2014年末:新設のアズラック難民キャンプの全住民と、新たにザータリ難民キャンプに到着した難民11,542名に冬物衣料を配布しました。

難民女性への衣料品配布(2013年1月)

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2013年1月、ヨルダン北部のシリアとの国境付近に位置するザータリ難民キャンプおよび国境付近において、避難している難民の女性に対して、約7,500着の女性衣料を配布しました。

ザータリ難民キャンプにおける水衛生環境の改善事業(2012年12月~2013年4月)

 

2013年上半期、ヨルダン北部のシリアとの国境付近に位置するザータリ難民キャンプにおいて、不足している洗濯場を21カ所に設置しました。人の目を気にせず、女性が安心して洗濯できる場所を提供すること、そして飲み水と生活排水が混ざらないようにし、衛生環境を改善するという目的で取り組みましたが、女性同士が気軽に交流できる場としての役割も果たしており、予定していた以上の効果がありました。

 

ヨルダンの基本情報

国名(英語表記) ヨルダン・ハシェミット王国(Hashemite Kingdom of Jordan)
首都 アンマン(Amman)
人口 945.5万人(2016年世銀)
面積 8.9万km2
言語 アラビア語(英語も通用)
宗教 イスラム教93%、キリスト教など7%

出典:外務省ホームページより 2017年1月現在