#3 情報を手に入れて、想像し、考える。
木山:現場にでて、戦争を経験された人たちとお話する中で、「戦争は解決じゃないんだ」「悲しい人を増やすだけで何の役にも立たなかった」と、たくさんの人に教えてもらいました。もう戦争が起きないようにするには、私たち、一人一人の強い思いが必要になってくると思います。それを揺るがないものにするために、戦争体験がある人と一緒に、たくさん伝えていかなくちゃいけないと思っています。千田さんは、まだ戦争にはなっていない日本で、私たち一人一人が出来ることはなんだとお考えですか?
千田: 情報を手に入れて“想像し、考える”っていうことでしょうか。戦争がおきたら、どんなことが起きるか、と想像する。例えば、日本に中国が攻めてきたら、日本と中国の関係がどうなるのかを、軍事的な観点だけではなく、経済学者に聞いてみる。『中国製品をボイコットしたらどうなるか』『中国に工場がある日本の会社はどうなるのか』『中国人の観光客がこなくなったらどうなるのか』とかね。戦争による両国関係の被害の大きさを考えたら、中国でも戦争を望まない人が多いとわかるはずです。
戦争を考える時、ポイントは色々あるんですよ。
まず、一番のポイントは、「人間は、死んだら生き返らない」ということですよね。自分や家族が殺されるのはもちろんイヤだし、殺すのもイヤだ。でも、それだけじゃない。戦争はね、「エコじゃない」んですよ。ものすごく資源を浪費し、環境を破壊し、汚染します。また、戦争には、レイプが付きものです。そのほか、どんな話からでもいいんです。人道支援とか、人権とかエコロジーとかジェンダーとか、色んな所から、平和の問題というのはつながっているので。
ただね、その時に抽象的な話にしないこと。色んな人の意見を聞く、データを調べて考える。そうすると、初めてそこからどうすればいいのかという話は出てくると思うんです。
あとは長期的には、子どもの教育なんだろうと思うんですよね。平和の問題だけじゃなくって、いじめの問題とかもすごく関わってくる。相手をリスペクトするとか、自分以外の人が何考えているかっていうのを想像できる『イマジネーションの力』とでもいうのでしょうか。
木山:本当にそうですね。単純そうに見える出来事にも複雑な背景がありますものね。そのイマジネーションの力で課題を見つけ出し、解決に向かうための行動を起こすには、自分の行動が何かに結び付くと思えていることが大切ですよね。
それから、なんかこう表面的になっているように感じることがあります。例えば学校で、「誰かを貶める言葉を使っちゃいけない」って先生が指導したとして、そういう言葉を使わないけど、話しかけもしないで無視し続けていたら、それは「いじめになると思うんです。
千田:そうですね。プロレスの話なんですけど…(笑)。相手の首を3秒以上絞めちゃいけないっていうルールがあるんですよ。そうすると、2秒は絞めてワン、ツーでパッと離すんですよ。そうすればセーフなんですよ。
木山:技なんですね。
千田:技なんですよ。最近のいじめの形がこれに似ているなって思って。「基準には達していないから、これはいじめではありません」みたいな。そういう、「基準に違反してなければいいんだ」っていう、ネガティブな発想っていうんですかね、ここから超えちゃいけないっていう犯罪のすれすれのところで生き残っている人びとが勝ち組になっているのかなって思うことがありますね。まあ、これは戦争の問題だけでなく、政治家や官僚の汚職などの場合も似ているのではないでしょうか。
木山:行動を制限しても埒が開かないのですから、行動を制限するんじゃなくて、もっと根本的な部分に気づき、身に付けられる様な教育ができたらいいなと思います。
あと、戦争を起こさないために私たちができる事という観点でいうと、大人も子どもも全ての人が「希望と自信を持って生きられる」事が、戦争を回避する事につながっていると私は考えています。ですから、JENの自立を支える活動では希望と自信を持って生きられるように、成功体験を積み重ねていける活動にするように心がけています。
(敬称略)
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千田善|ちだ ぜん
1958年、岩手県生まれ。国際ジャーナリスト、通訳・翻訳者。立教大学講師。旧ユーゴスラビア・ベオグラード大学政治学部大学院中退。専門は国際政治、民族紛争、異文化コミュニケーションなど。紛争取材など、のべ10年近い旧ユーゴスラビア生活を経て帰国。外務省研修所、一橋大学、中央大学、放送大学などの講師を歴任。2006年からイビツァ・オシム元サッカー日本代表監督の専属通訳に。みずからもボールを蹴るサッカー歴40年、現在もシニアリーグの現役プレーヤー。『ワールドカップの世界史』(みすず書房)、『なぜ戦争は終わらないか』(同)、『ユーゴ紛争』(講談社現代新書)ほかの著作、翻訳がある。