(写真:左から/木山啓子、黒田由貴子、黒木明日丘)
―――座右の銘はみなさんお持ちですか。
黒田: 好きな言葉は「抱腹絶倒」ですが、それでは座右の銘というかんじではないですね。座右の銘は強いていえば、「天は人の上に人をつくらず、人の下に人をつくらず(福沢諭吉)」ですかね。
実は、私、フィギュアスケートをやっていたんです。高校から大学2年生まで5年間体育会スケート部に所属していました。自分の技術の限界を感じて途中でやめてしまったのですが、その時思ったのは、体育会系組織は体力的には大変だけど、精神的には楽だなと。上のいうことを聞いているだけでいいから、何も考えなくていい。でもそれでよいのだろうか?その楽さが、組織全体をよくない方向に持っていってしまうこともあるのでは?と感じたんです。だからこそ、母校の福沢諭吉が言うこの平等でフラットな目線の言葉をいつも大切にしています。
――― 一方で、日本企業などでは、どちらかというと体育会的思考が歓迎されている気がしますが。
黒田:体育会系的思考で過ごしてしまうと、自分で決める立場になった時に難しくなりますよね。
それまでは思考停止して、ただ先輩の言いなりにやってきたのに、4年生になって突然様々な決断をしなくてはいけなくなったとき、そううまくはできません。やっぱり、1年生、2年生の時から「先輩、こうすべきではないでしょうか?」と提案できる環境が必要なんだと思います。
木山:日本社会ってそういう部分がある気がしますよね。
黒田:そうですね。表向きはみんな自立を求めているけど、本当は、みんな自分のいうことを「はいはい」と聞いてくれる人がかわいくなっちゃう。そこは、ちょっと難しいですよね。
――― 黒木さんの座右の銘はなんですか。
黒木:「笑顔をわすれずに」、をいつも大切にしています。日々の業務中で悩んだり悔しい思いとしたり、判断が難しい局面があったりしますが、大変な時もいつも笑顔は忘れずにいたいと思っています。
あと、座右の銘ではないんですけど、JENの活動で目指す形と言うことでいうと、現地で支援させていただく方たちが「自分たちでやってみよう」と変わっていくようにサポートすることだと思っています。と言うのも、昨年スリランカの現場視察に行った際に、JENの支援地である2つのコミュニティにお邪魔したんです。
1つめは、課題を多く抱えているコミュニティでした。そこに暮らす人びとは「JENにもっとこんなことをして欲しい」「●●が足りない」など、依存心が強かったんです。でも、その後、別の2つ目のコミュニティに伺ったら、皆さんとってもポジティブで、「JENの支援が終わった後も、私達、こんなことをやっているんですよ!」と、見てみて!と言わんばかりでした。JENに言われた訳でもなく、自分たちで考え、話し合って、自分たちでできる新しいチャレンジを始めていたのです。それを知ってとても嬉しかったですね。さらに、JENにサポートしてほしい事がありますか?と聞いても、「ないよ」っていうんですよ。JENが目指すべきことが明確になりましたね。また、訪問したこれらのコミュニティもそうですが、JENは支援が終了した後も、JENの職員が定期的に訪問して様子を伺ったりと継続的な関係を続けています。継続した関係構築が、こうした人々の自立を引き出すことにもつながっていると思いますから、これからもそうした支援の形と関係が継続していく活動を続けていきたいです。
――― では、最後…木山さんの座右の銘はなんですか。
木山:ちょっと長くて恥ずかしいんですけど。(笑)「欲望は必ずしも、心を害せざれども、意見はすなわち心を害するのボウゾク(筆者注:害虫の意)たり」(菜根譚)意見を持つことはいいけど、自分の意見だけが正しいと主張し続けることが一番害で、欲にまみれているよりもひどいということ。この頃は、多様である事の大切さをさらに感じています。自分も人も許すというか、受け入れることがとても大事だと思っています。
――― 実は、とっても難しい中国古典ですね。世界中でそれができたら戦争もなくなりそうですね。ちょっと、別の角度の質問ですが、私を含め、JENを支援してくださっている皆さんも感じることの一つに、「どうやったら紛争をとめられるんだろう」、という大きな悩みみたいなものがあると思います。
黒木:そうですね…人道支援に関わるスタッフも同じく直面する壁の1つだと思います。紛争問題に向き合っていると、自分たちの力だけでは、戦争を終わらせる事ができない辛さみたいなものでしょうか。
木山:そんな時に、いつも私達が立ち返るといいのは、プロジェクトをつくるときに、そこにある本当の原因は何なのか、を突き詰めて考えることだと思います。今すぐに、戦争の止め方が分からなくても、一人の考えで戦争を止められないとしても、戦争が起こらないようにするために、または止めるためには?と人びととともに悩みに悩んで、本当の原因を探し、提案していくこと。
黒田:例えば、ヨルダンでは、難民キャンプの中で、自治体の様な組織を作るサポートをしていますよね。それは将来、国に帰れた時に自分たちの力でやっていけるようにする仕組みづくり。
そうすることで、人に頼って、裏切られて、という憎悪の連鎖がなくなります。そこが1歩ですよね。さっき、黒木さんのスリランカのエピソードが、まさに成功事例じゃないですか?あのプロジェクトがあって成功体験をしている人びとがいたこと。成功していなかったら、不満がつのってまた紛争になる事も考えられます。
木山:全く同感です。そして成功事例とは、人の尊厳が尊重された時に起きると思います。そういった1つ1つの成功事例が、一人ひとりの人生を良くし、最後には世界が平和になっていくのではないでしょうか。小さなことと思えるかもしれませんが、身近なことから具体的に動くことから世界を変えられると思っています。私達はそのサポートをし続けることが使命なのだと思います。
▼プロフィール
○共同代表理事 黒田由貴子
(株)ピープルフォーカス・コンサルティング取締役・ファウンダー。組織開発・経営者向けのコーチング等を手がける。2014年より現職。
○共同代表理事 木山啓子
JENの創設に参加。これまでに24に及ぶ国と地域で難民・避難民緊急人道支援活動に従事。2000~16年まで事務局長。
○事務局長代行 黒木明日丘
民間企業、NPO、行政機関を経て、JENに入職。シリア難民支援など支援事業に携わり2016年まで事業部課長。