東北支援速報

打ち上げられた船を見つめて

2012.03.08

打ち上げられた船を見つめて

これは去年の12月10日に撮影された底引き中型船の写真です。震災から9か月を経ても動かすことができず、港にこの1隻だけが取り残されたままになっています。

実は、この船の持ち主というのが、JENの支援を受けている業者さんなのです。今回は、この船と業者さんとJENのエピソードをお伝えしたいと思います。

解体業を営んでいる業者さん。震災当日は、買い取った船を陸揚げ・解体するため、別の漁港へ曳航(えいこう)する準備をしていました。あと5分で曳航開始という矢先に、激しい揺れに襲われました。間違いなく大津波が来ると確信し、一刻も早く高台へ逃げなければと思ったものの、船のことが気にかかり、30分がかりで岸壁に係留し直しました。その後、逃げる途中で津波の第1波にのまれ、一気に押し流されたのです。高台のふもとの墓地の墓石にしがみつき、かろうじて一命を取り留めることができました。そして高台へと這い上がり、同じように後から流されてきた人たちを何人も引っ張り、避難させました。しかし、家屋をのみこんで襲い来る第2波を目の当たりにした後の記憶は、断片的にしか残っていないそうです。

翌日、高台から近くのパチンコ店に避難。そこで2晩過ごし、7時間歩いてやっと自宅へ帰れたのは3日後のことでした。ご自宅もご家族も無事でしたが、従業員が1名、津波に命を奪われてしまいました。また、営業用のトラック2台と重機1台が流され、大型車1台も半分冠水しました。

あまりにも非現実的な現実の連続。一体これからどうしていけばいいのかと、頭の中の整理がつかずにいたある日、JENとの出会いがありました。JENから、被災した個人事業主にトラックを無償で貸し出すという支援の打診があったのです。

全く聞いたことのない団体、全く面識のない人からの突然の電話に、最初はそんな虫のいい話などあるわけがないと思ったそうです。しかし、自力で車両を手配しようと探し回っても、販売・リース共に1台もないのが現実でした。

半信半疑ながらもコンタクトをとっているうちに、話がまとまり始め、最終的にはトラック2台貸し出しの契約を結ぶことができました。それによって仕事が生まれ、新たに4名の従業員を雇用でき、今ではトラックを使った社会貢献活動にも積極的に取り組んでいらっしゃいます。

(人々の生活再建のための本事業は、支援者の皆さまと、ジャパン・プラットフォームのご協力により2月末日まで実施されました)

「今まではテレビなどで復興支援活動をする人々を見ていたけれども、今回、実際に支援を受ける立場になって、口では言い表せないほど感謝をしている。本当にいい経験をした」と、業者さんは語ります。

【業者さんのお話に耳を傾けるJENスタッフ】

さて、そんな業者さんの船のその後はというと、今年の1月10日、ついに陸揚げに成功したのです。実はこれまでに2度陸揚げを試みましたが、2度とも失敗。これが3度目の正直、というわけです。これには業者さんも、JENスタッフも感無量です。

【吊り上げられた船】

そして2月27日、大がかりな解体作業が始められました。作業には、JENが支援しているトラックも使われています。

【解体された船の部品をトラックで運搬】

港に取り残された最後の一隻の船。姿を消しても人々の記憶にはずっと残ることでしょう。間もなく震災から1年を迎えます。これからも景色はどんどん変わっていきますが、震災の教訓と支え合いの心は決して忘れてはならない、と改めて思いました。

JENはこれからも地元の人々に寄り添いながら、支援を続けていきます。

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