シリア危機が勃発してまもなく7年。ザータリ難民キャンプに暮らすシリア難民たちは、2018年の年明けにどんな夢を描いたのだろうか?
2018年、シリア難民たちの夢と願い
Text by Qasem Al-Shahmeh and Hajar Al-Kafri
ザータリ難民キャンプで避難生活を送るシリア難民たちは、「今年こそ離散生活を終えて祖国に戻り、家族や大切な人々と普通の暮らしができますように」と、新年を迎えるたびに祈る。ときに痛切に、そしてときに希望を胸に抱きながら。
病気がよくなりますように、仕事が見つかりますように
ザータリ難民キャンプの第12区にある、ラダ・バジボジの家族を訪ねた。石や砂だらけの小さな庭が、トタン板に囲まれているプレハブの一室、それが彼らの家だ。
ラダは、そこで妻と3人の子供たちと一緒に暮らしている。快適な家に改築するような余裕はない。また、子供のひとりはダウン症だが、充分な診療を受けさせることもできない。
ラダの2018年の願いは、子供の病気がよくなること、そして、仕事が見つかり家族に必要なものを手に入れることができるようになることだ。
大学で得た学びを祖国に持ち帰りたい
カセムは熱意に溢れる若者で、優秀な成績で高校を卒業した。いまは、私費でザルカ私立大学に通っている。学費はとても高いが、奨学金を得ることはできなかった。希望していたジャーナリズムやメディア専攻は特に高額だったので、あきらめざるを得なかった。
だが、カセムにも運が向いてきた。英語学科に通いはじめた彼の勤勉な学習態度が大学から認められ、学費の減免を得られたのだ。
カセムの新年の願いは、大学で優秀な成績を修め、ジャーナリストとしての仕事を見つけること。そして、勉学と仕事の両方から得た多くの知識や経験を、母国に持ち帰ることだ。
歌手になる「17年越しの夢」を叶えたい
32歳のアブ・バハルは、15歳のころから歌うことが好きだった。兄弟たちも彼の歌が大好きで、よく歌をねだられたという。シリアに住んでいたころの先生も彼の声は美しいと、応援してくれていた。
現在、アブ・バハルは床屋で働いているが、祝い事の席で歌を頼まれることもある。彼は偉大な歌手になるという夢を、まだ捨てていない。
僕はいま幸せ、家族と友人がいないこと以外は
ザータリ難民キャンプからオランダに移住したアブドルラフマン・アルハリーリから、メッセージが届いた。
「夢を叶えるため、オランダで英語翻訳の勉強をしている。移住前は不安だったけれど、いまは幸せだ。夢や大きな目標を叶えたいなら、移住を勧める。僕はいまは幸せだ。願いは友人や家族に会うことだけ。ここでできる限りのことを成し遂げて、誇りを持ってシリアに帰国したい」
男子だって水は欲しい
ザータリ難民キャンプ内の学校では、男子生徒が授業を受ける時間帯に水不足が起きるという(午前は女子生徒、午後は男子生徒が授業を受けるシステム)。イードにはそれが不満だ。給水トラックが来るのは、午前の女子生徒の時間帯だけ。イードは、両方の時間帯に給水トラックが来ることを願っている。
長すぎる別離
45歳のウム・イブラヒムは、我々にこう語った。
「2018年は、すべてのアラブの国々に平和が訪れますように。そして、何年も前に見捨ててきてしまった我が家に帰れますように。別れはつらいものだし、その痛みを忘れることは決してない。いまでも、いつかまた、故郷シリアに住める日が来ることを願っている」
「いつか」はいつなのか
ムハンマド・ナセルの新年の願いは、シリア内戦が終結し、故郷の村にある自宅に戻って友だちや親戚と再会することだ。内戦はいまだに混沌としているが、苦しみを終わらせる平和的な解決方法がきっとあるはずだ。
年が明けるたび、私たちはもう何日、避難生活を過ごしたかを数える。いつかきっと、故郷に帰る。しかし、その「いつか」は、いつなのだろう。
砂塵が吹き荒れる難民キャンプ、ザータリ
Directed by Faredah Nserat /executive director Bent Marble and Steve Clack / Supervised by Cyril Cappai and Hada Sarhan
砂漠のど真ん中にあるザータリ難民キャンプでは、砂嵐が頻繁に吹き荒れる。風で舞い上がった砂塵は視界を遮断し、鼻や喉を傷つけて、そこら中にあるものすべてを汚してしまう。キャンプで悪化する大気汚染問題を、THE ROADの動画チームが切り取った。
The Road ×クーリエ・ジャポンの記事はこちらからもご覧いただけます。
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