セクハラ問題に対して「Enough」と声をあげた少女たち
米国ではこれまで明るみに出なかったセクハラ問題が一気に噴出して議論を呼んでいるが、ザータリ難民キャンプでも心無い若者の「ナンパ問題」が物議を醸している。しかも不利益をこうむるのは、被害者である少女たちのほうだ。
この問題に目をそむけるべきではない、もう充分だ(Enough)と、「THE ROAD」のジャーナリストが声を挙げた。
「もう、充分(Enough)」
Text by Rand Al-Hariri
Photograph by Mohammed Al-Refaee
「もう、うんざり。
学校にも仕事にも行かずに通りにたむろし、女の子に声をかける若者たちのせいで、教育をあきらめなければならないなんて。
もう、うんざり。心配性の親に外に出るなと言われることに。
もう、うんざり。愚かな若者たちのせいで、私たちの将来を無駄にしたくはない。
そうだ、こんなことはおかしいとはっきり言おう。こんな犠牲はもう終わりにしなくてはならない」
これは、ザータリ難民キャンプに暮らすある少女が発したメッセージだ。彼女は、キャンプ内にある学校やNGOなどが運営する施設に通うことを家族から止められてしまった。通りで少女たちを待ち伏せし、ナンパをしてくる若い男性たちがいるからだ。
学校に通うでもなく、かといって仕事をするわけでもなく、日々を無為に過ごす若者がザータリには少なからずいる。特にすることもない彼らは、女の子たちを待ち伏せして声をかける。
若者たちにとっては単なる暇つぶしかもしれないが、少女たちにとっては大迷惑だ。シリアでは結婚前の男女交際が容認されていない地域が多い。そのため、娘がおかしな男に引っかかるのではないかと心配した家族が、娘の外出を禁じるようになるのだ。
多くの少女たちは将来のために、学ぶことに意欲的だ。だが、若者たちの軽率な行動のせいで、せっかく与えられた教育の機会をあきらめ、ただ家に閉じこもらなければならなくなる。
なぜ少女たちだけが、抑圧されなければならないのか。若者たちの失礼な言動を止める人もいないので、問題はなかなか解決しない。
私は、このナンパ男たちに問いかけたい。もし自分の妹や母親が同じことをされたらどう感じるのかと。シリアにいたころは守ってきた伝統や習慣を軽視する若者たちのせいで、何人の少女が教育を受ける権利をあきらめ、未来を犠牲にしたのかと。
もう、充分。毎日繰り返されているこの問題は、もう、終わりにしなければならない。年長者が組織を作り警察と協力して取り締まれば、問題は解決するはずだ。
そして親たちは、どうか自分の娘を信じてほしい。あなたの娘は、こんな軟弱な男たちに簡単について行ったりはしないと。
希望の絵
Directed by IN TRANSIT TEAM / Project Director Omar Braika / Supervised by Cyril Cappai and Hada Sarhan
「THE ROAD」の動画プロジェクト始動1周年を記念して、制作された作品。ザータリ在住の画家が、故郷シリアの思い出を仮設住居の白い壁に描いていく……。
The Road ×クーリエ・ジャポンの記事はこちらからもご覧いただけます。
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ヨルダンには、日本と同じような季節の移り変わりがあります。砂漠地帯にあることから朝晩は日中と比較してかなり気温が下がりますが、日本のほうがやや寒いかなぁ、という感じです。
もっとも大きな違いとしては、雨季の時期でしょうか。日本では、春と夏の間に梅雨がありますが、ヨルダンでは晩秋から冬にかけての数ヶ月に1年分の雨が降ります。
今年は、昨年と比べて気温が下がり始めるのが遅く、生活をする上では楽でしたが雨の遅れが心配されました。11月中旬には、イスラム教に関する全てのことを管轄する省(the Ministry of Awqaf and Islamic Affairs)の通知により全国のモスクの金曜礼拝で雨を請う祈りが行われたおかげか、11月後半からは雨が時々降り始めました。この特別な祈りは、預言者モハメットの時代から続く儀式です。
ザータリキャンプでは10月から、冬の悪天候による影響を軽減するための準備が始まりました。キャンプがある地域は、土壌が粘土質であるために雨が降ると雨水が地面に浸み込まず地上に水が溜まるため、低いところに位置する家庭では、最悪の場合床上浸水し、避難せざるを得ないこともありました。また、降雪や暴風も想定されます。
そのため、これまでの経験から少しでも被害を少なくするために、セクターごとに事前の予防・緊急時の対応計画などが話し合われています。その一環として、ガスを購入するためのバウチャーや子どもの冬服を購入するための現金の配布、毛布や食料品の配布が行われています。
JENは水衛生関連団体の一員として、水の供給、下水の汲み取りなどの通常の水衛生関連サービスが問題なく行われるように、去年の被害状況を考慮して一時的な給水タンクの設置・公共タンクの位置の移動を計画しています。また、雨が降った際に浸水する場所に水が溜まらないように設置した側溝の詰まりを解消する、または新しい側溝を設置するなどの工事も行われています。一方で、住民に対しても各々ができる準備をするように促したり、悪天候の際の注意事項などを伝えたりしています。
去年に比べて特に対策が必要なのは、現在キャンプ内で建設している上下水道ネットワークの工事現場の安全性の確保です。下水道のネットワーク工事では、深いところでは5-6メートルも地面を掘るため、通常時でも安全対策には細心の注意を払っています。これからの季節、地上を流れる雨水が工事現場に流れ込み、地面と水面の区別がつかなくなることで、車両や通行人が穴に落ちることなども想定され、建設業者とともに対応・事前準備の必要があります。また、掘削時の土が給水トラックや汲み取りトラック移動の妨げとならないようにする必要もあります。
これからの数ヶ月間、悪天候は避けることはできませんが、できるだけ被害が少なくなるよう、関係者と密に連携しこれまでの経験から得た教訓に基づいた準備・対策をとっていきます。
【道路が地面より高いため、道路脇にとどまってしまった水を流すために、アスファルトを一部分取り除く様子(ザータリキャンプ9区)】
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寒い冬に温かな幸せをもたらすシリア難民の知恵
今年もザータリ難民キャンプに冬がやってくる。灼熱の砂漠のイメージがあるヨルダンだが、キャンプ周辺は冬になると気温が氷点下になることもある。だが、ここに暮らすシリア難民たちは厳しい冬がやってきても、知恵と工夫を凝らして生活を楽しみ、シリアを偲ぶことを忘れない。
Text by Abeer Al-Eid and Suhaima Al-Ammari
Photographs by Mohammed Al-Refaee
ザータリ難民キャンプに暮らす、シリア難民の冬支度が始まった。砂漠地帯の極寒の冬を凌ぐため、人々はどんな工夫をしているのだろうか。「THE ROAD」が取材した。
オム・ラフィエ(44)は、空気が澄んだ冬が好きだと言う。とはいっても、ザータリ難民キャンプの冬は厳しい。ラフィエは、冬の間も家族が温かく快適に過ごせるようにと、準備の真っ最中だ。
食糧を貯蔵しておくことは、特に重要だと彼女は言う。マクドゥース(小なすのオリーブオイル漬け)、ヨーグルト、モロヘイヤ、オクラ、ぶどうの葉といった保存食は、シリア人が冬を越すために欠かせない。
さらに冬が訪れる前にはマットレスを洗い、仮設住居の修理をして、隙間から水や寒気が入ってこないようにする。
オム・マフムード(39)も他の女性たちと同じように冬支度で大忙しだ。
「私も家族も全員冬が大好きなの。冬の空気も好きだし、暖房のそばに家族みんなで集まって座るのも好きよ。冬に食べたら美味しい保存食もちゃんと貯蔵したわ」
もう少ししたら、シリア人の冬には欠かせないオリーブの塩漬けも作るつもりだ。さらに彼女は、子供たちを寒さから守るようにと、窓やドアなど仮設住居のあちこちを修理して回っている。
こう聞くと、冬を迎える前のシリア難民の女性たちは大忙しだと思うだろう。だが、オム・カシムは、冬支度は大変じゃないし、お金もかからずに簡単にできるものだと話す。
貯蔵食はシリアにいたころも作っていたし、それによって家族が喜んでくれることが彼女にとっては何よりの喜びなのだ。
冬の初めは夜に急速に冷え込むことがあるので、仮設住居もしっかりと修理した。子供たちがいつでも着られるよう、温かい服も洗濯済みだ。
男たちも、冬支度には余念がない。
アブ・オデイ(48)は、雨水が仮設住居周辺にたまらないように排水用の細い溝を作る工夫をしているという。作業はとても簡単なので勾配のある土地に住む家族はやったほうがいいと彼はアドバイスしてくれた。
アブ・アリ(56)は、冷気が部屋に入らないよう、窓とドアをしっかり閉めるようにしている。冷たい雨風から仮設住居を守るためには、オレンジ色のビニールシートで覆う方法がおすすめだそうだ。さらに、雨が降っても地面がぬかるまないよう、仮設住居の周りにある土や石を取り除いているという。
「仮設住居をこうやって補強しておけば、冬も幸福と温かさをもたらしてくれる」と、アブ・アリは言う。
リサイクル水で植物を育てる私の庭は、美しい
Directed by IN TRANSIT TEAM / Project Director Omar Braika / Supervised by Cyril Cappai and Hada Sarhan
世界的に水不足が問題になっているが、難民キャンプでも水は最も重要な物資のひとつだ。日本の国際NGO・JENはキャンプ内で水と衛生に関わる支援を担い、ひとりひとりに充分な水がいきわたるように尽力しているが、難民たちはシリアで暮らしていたときのように潤沢には水を使えない。
人々は限られた水を、どのように節約しているのだろうか? そのユニークな知恵の数々を、動画で紹介する。
00:00-00:05 ヨルダンにあるザータリ難民キャンプは、世界でも有数の規模だ。
00:06-00:07 そして、世界でも最も水が不足している国にある。
00:08-00:11 ザータリ難民キャンプに住む難民の数は約8万人。
00:12-00:17 キャンプの生活用水は地下水でまかなわれている。
00:18-00:23 ひとり当たり1日35リットルの水が確保されており、約3500立方mの水が毎日消費されている。
00:24-00:28 しかし、深い井戸からくみ上げる水がひどく濁っていることもある。
00:29-00:33 なぜなら枯渇するかもしれないほど、井戸の水が少なくなっているからだ。
00:34-00:39 最近、キャンプの水の消費量が急激に変動している。
00:40-00:43 その理由を探るため、数人の難民に節水の工夫をしているか聞いてみた。
00:56-01:02 私たちは第10区に住んでいます。ホースを使って、節水をしています。
01:04-01:15 (給水所から)水を運ぶときにバケツを使うと、水がこぼれやすいからです。こぼれる心配のないホースを使って水を運搬するほうが、節水になります。
01:19-01:40 私は、洗濯に使用した水を庭の植物の水やりに再利用しています。私の小さな庭はとても美しいですよ。
01:42-01:58 私たちはザータリ難民キャンプに5年住んでいます。ここで多くの水が使われていると知っています。だからこそ、節水のためにプラスチックボトルを再利用したシャワーを作りました。ボトルに小さな穴をたくさんあけてホースをつなぎます。フタをあけると、節水シャワーになる仕組みです。
02:05-02:12 私たちは、髭剃りをするときには水を蛇口から流し続けるのではなくて、小さなボウルに少しの水を入れ、無駄なく使うようにしています。
02:19-02:21 自転車をきれいにするために水を使うのは意味がありません。
02:27-02:32 かわりに水で濡らした布で自転車をふいています。こうすれば水をあまり使わなくて済みます。
02:42-02:48 衛生の知識を学ぶワークショップでキャンプにある水に限りがあることと、どのように節水すれば良いかを学びました。
02:53-03:10 神のご加護により、節水できています。私たちは果物や野菜を洗った水を植物にあげています。ここでは水が不足しているので、無駄にできません。
03:11-03:34 私たちは、水を大量に消費するか、節水するか、選ぶことができます。私は、節水することを選び、食器洗いに使用した水を再利用しています。
洗剤を入れて、床をきれいにするために使っているのです。節水は私のためでもあり、周りの人々のためでもあります。
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JENの支援活動は、支援者の皆さまからのご寄付に加え、国連ユニセフやジャパン・プラットフォーム(以下、JPF)とパートナーシップを組み実施しています。
10月23日、24日、25日に、JPF東京本部から2名の職員がヨルダンを訪れ、このうち2日間はJENが2016年から2017年4月までの約1年で実施した支援活動のモニタリング(視察)を行いました。この1年では、シリア難民生徒を受け入れて老朽化が加速したホストコミュニティの公立校のトイレ・洗い場など水衛生施設の整備、また生徒への衛生促進活動を実施することができました。
今回の視察団には、活動を終えた複数の学校で支援後の水衛生施設を視察していただきました。施設を清潔に保つ努力をしている学校だけでなく、衛生的に保たれていない学校も対象にしました。ヨルダンの男子校では一般的に、自助努力による学校施設の維持管理が喫緊の課題となっています。訪問先では、それが私たちの目にはどんなに非衛生的に映っていたとしても、現地の人びとは「JENの支援によって衛生状況や生徒の態度がはるかに改善・向上した」と嬉しそうに話してくれました。
ヨルダンの公立校には、水衛生施設の維持管理基準があります。こういった学校は、基準では平均を下回ります。それでも学校側は、改善・向上の兆しが見られていると前向きに受け止め、一歩一歩あきらめずに努力を続けています。今回は、JPFにこのような現状を知っていただくことが出来ました。
施設を維持管理する際の良し悪しは、学校長や教員のモチベーションにかかっていると言っても過言ではありません。たとえ今は維持管理の基準値を満たしていなくても、努力を継続していくことが大事なのです。そのため、JENは、支援事業が終了した後も学校を度々訪問してモニタリングを実施します。こうして、教員と話し合う機会を大切にしています。
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10月30日、ユニセフの依頼を受けて、アンマン県のアル・バセリヤ共学小学校にて世界手洗いデー(毎年10月15日)のイベントを実施しました。ヨルダンでは、ユニセフが日本政府の支援で水衛生の環境改善事業を行っています。今回のイベントは、この学校が属するコミュニティで実施した給水ネットワーク事業の完成を祝う式典の中で行いました。
アル・バセリヤ校は、アンマン県を構成する9郡の一つであるアル・ジーザ郡の砂漠地帯にあります。この学校を含むコミュニティを対象にした給水ネットワークが完成したことで、地元の人びとは日々の生活に支障なく水が使えるようになりました。この学校の全校生徒数は約180人です。イベントでは、水を使えるようになった近隣コミュニティの学校の生徒も招待され、約300人の児童が集まりました。また、地元からも約50人が出席しました。
出席者のほぼ全員が赤と白のアラブの伝統的なヘッドスカーフをかぶり、デシュダッシュと呼ばれる長いシャツドレスをまとって、駐ヨルダン日本大使とユニセフのヨルダン代表を出迎えました。
首都があるアンマン県にも、アル・バセリヤ校のように毎日支障なく水を使用できる環境が整っていない学校が沢山あります。この校にはシリア難民の生徒はいませんが、このように水の使用が限られている学校では、シリア難民を受けいれることで、更なる水不足に陥ってしまうことが問題になっています。
ヨルダン経済は不安定で、政府が自助努力でインフラ整備をすることが困難です。JENを含む支援機関では、ヨルダン国内で水供給の安定化とシリア難民とヨルダン人の社会的結束を促す支援活動を実施しています。
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