3年におよぶJENハイチ事務所の駐在をへて、私は12月9日、ヨルダンにおけるシリア難民緊急支援のプログラムオフィサーとしてアンマンに赴任しました。
ここでの仕事は、ハイチと同様に水衛生分野に携わりますが、トイレやシャワー、洗面台、洗濯場などの水衛生施設を難民の人々が清潔に、またいつでも使用できる状態に維持することが、私の仕事となっています。
2014年を迎え11万ちかくの住民が住むザータリキャンプは、狭いスペースのなかに大きな街ほどの人口を抱えています。高い人口密度に加え、住民たちが戦禍から逃れ、すべてをなくしてキャンプで暮らしているという事実は、キャンプ内での仕事をより難しくしているのです。
どこの国のどこの町でもあることですが、残念ながらザータリキャンプにも、ごく少数ではありますが、公共設備を軽視したり壊したりする人たちがいます。
難民キャンプで活動するのは初めてだったので、私はザータリ難民キャンプでの生活がどのようなものなのか、全く想像がついていませんでした。
しかし、毎日のようにキャンプ内の水衛生施設を歩き回るうちに、シリア難民のコミュニティについていくらかですが、わかってきたことがあります。
それは、ザータリキャンプはほかの町と変わりはない、ということです。どこの家庭にも遊び回っているこどもたちがいて、悲しみや病、死といったものがある一方、幸せや希望、そして新しい命とが隣り合わせに存在しています。
これから始まる素敵な1年のために、数日前にある難民が見せてくれた家の話をお伝えしたいと思います。
外側はまだできあがっていませんが、家の入口はとにかく豪華です。 写真の右側に立っている男性は、もともとUNHCRより供給されたキャラバンに住んでいましたが、お金を借りて60万円ほどをかけ、追加で3戸のキャラバンを購入し、壁を塗り直し、家具をそろえています。
私が気に入ったのは、家の中に作られた泉です。
こんな素敵な家を建てているのは、ザータリキャンプに長く住むことを心に決めているからではないか、、、この誇らしげな男性に、私は訊いてみました。すると、彼はこう答えました。
「私の国では紛争が続いていて、いつ終わるかなんて誰にもわからない。でも、そんなことを云ったって、人生は続いている。どんなときだって家族にベストなものを用意してあげたい。この家は今私が家族のためにしてあげられる精一杯のことなんだ」。
これほどの資金を借りることができる難民はザータリキャンプの中でも一握りです。そして、だれもがこの男性ほどのやる気とアイデアを持っているわけでもありません。
正直に言いますと、キャンプ内にこのような家があり、新年を祝う1年の初めに出くわすことになるとは、思いもよりませんでした。
プログラム・オフィサー
ロマン・ブリー
【JENでは、皆様からのご寄付を受け付けています。ご協力をよろしくお願いします。
ご寄付は、こちらから受け付けております】
JENがザータリキャンプおよびヨルダン国内のホスト・コミュニティで暮らすシリア難民への支援を開始してから、2度目の冬がやってきました。
ヨルダンの冬は雨季が重なり、12月から3月頃まで雨が降ります。ヨルダンは乾燥して暑いイメージが強いですが、雨季には雪が降ることもあります。つい先日、12月中旬にもアンマンに雪が積もり、3日もの間、交通網が麻痺しました。
アンマンが記録的な豪雪に見舞われていた頃、アンマンの50キロほど東に位置するザータリキャンプでも、まとまった雨が降っていました。降水量の少ないヨルダンでは、雨は大切な水供給源ですが、今回の雨はザータリキャンプに水害を引き起こし、住民の仮設住宅が浸水する事態を招いています。
このような状況下のザータリキャンプで、水害で被害を受けている人々の生活を支援すべく、JENはUNHCRや他の国際NGOとともに、緊急支援を開始しました。
今回の豪雨で、ザータリキャンプ内には大小いくつもの水たまりができていました。水たまりは仮設住宅やテントの中に流れ込んでおり、衛生面の問題に加え、感電などの危険性もはらんでいます。 そこで、雨の降りはじめた翌日より、JENは緊急対応策として、排水用ポンプを搭載し約16㎥の水を回収できるトラックを5台、キャンプに派遣し、排水作業を開始しました。この作業には20人以上のスタッフが従事し、4日間で、約122万8千リットルの泥水を回収しました。さらに状況が悪化した時のために、予備のトラック2台も準備していました。
【泥水に覆われた地区に配備されたトラック】
【ノズルを伸ばし、泥水を吸い上げて回収します】
また、JENは緊急連絡ホットラインを設置し、各地域の水衛生委員会メンバーが水たまりや感電の危険性のある場所があればJENに連絡し、すぐにトラックを派遣することができるようなシステムを構築しています。このホットラインは水たまりの場所や状況をより正確に把握するのに役立っています。
【ノズルの先には、水たまりに浸かってしまった電線が見えます】
JENの衛生プロモーターやコミュニティ活動普及員もこの緊急支援において重要な役割を果たしています。
豪雨の予報をうけて、JENはキャンプ内の全水衛生委員会に、事前にシャベルやつるはしを配布していました。これらの道具は、仮設住宅やテントの周りに溝を掘ることで、住居の浸水を防ぐために使われています。JENの衛生プロモーターやコミュニティ活動普及員は、JENの統括地区である3区、4区、5区において、各世帯を1件1件訪ね、そういった道具が水衛生委員会を通じて借りられることや、どうやって使うかを説明しました。
【JENや日本のODAステッカーが貼られたトラック】
ヨルダンの雨季と冬は始まったばかり、これから3ヶ月以上もつづきます。この厳しい生活環境のなかでも、シリア難民の人々が安全で安心した暮らしを送れるよう、JENは迅速にかつ状況に応じた支援を続けていきます。
【JENでは、皆様からのご寄付を受け付けています。ご協力をよろしくお願いします。
ご寄付は、こちらから受け付けております】
12月に入り、ヨルダン北部に位置するザータリキャンプにも厳しい冬がやってきました。キャンプでは、今月初旬より国際NGOを中心に、越冬対策のためのさまざまな支援が行われており、JENも全キャンプ住民に冬物衣料を配布しています。
ヨルダンの冬の冷え込みは厳しく、北西部に位置するザータリキャンプもまた例外ではありません。子どもや乳幼児を抱えた何千もの家族にとって、砂漠の中にあるザータリキャンプの夜の寒さは特に堪えます。
この厳しい冬を乗り切るため、家族の一人ひとりが暖かい冬物衣料を受け取ることができるよう、JENは各世帯の家族構成に応じた衣料パッケージを配布しています。ありとあらゆる家族構成に対応するため、衣料パッケージは350ものタイプに分けられています。たとえば、タイプ1は子どものいない夫婦用のパッケージで、タイプ144は夫婦と8人の子ども用のパッケージ、というようになっています。
【このタイプ85のバックには、男性2名、女性3名、4人の子どもたちのための衣料が入っています】
衣料配布は10月末から平均週2回のペースで行われています。現在のところ、全12地区のうち10地区での配布が完了しています。
配布当日、朝5時までにトラックへ荷積みを完了するために、JENスタッフは早朝から倉庫で仕事を始めます。配布対象となる各地区の人口によって異なりますが、8台から16台のトラックが倉庫からキャンプへ向け、約1時間の道のりを車列をつくって進んでいきます。
【ザータリキャンプへかう道中の朝日。週2回、夜明け前から早起きをして 働いているスタッフにとって一番のごほうびです】
トラックには配布予定地区の通りごとに衣料が積み込まれており、キャンプに到着すると、各トラックがそれぞれの通りへと向かいます。
各通りでは、配布用のキャラバン(仮設住宅)でダンボールが荷解きされ、衣料配布に向けての準備を行います。
【配布用のキャラバンの入り口で、名前が呼ばれ、衣料を受け取るのを待っている人々】
【JENが作成した配布用リストをもとに、名前を読み上げるキャンプ住民の代表者】
【名前が呼ばれてやってきた住民の身分証明書をJENスタッフが確認】
【JENスタッフが衣料の入った青バッグを手渡します】
【たとえバッグが大きくても、がんばって一人で持って帰る男の子】
【バッグにつけたタグを首飾りのようにかけている子どもたち】
以前に衣料配布を実施した地区を訪れると、住民からJENの配布に対してとても好意的な声が聞かれます。衣料の質はもちろん、家族構成に応じて準備されたパッケージや、衣料配布の過程でキャンプの住民と協働しながら実施していく方法などに、住民は満足しているようです。
衣料配布は予定通り順調に実施されています。本格的な冬がやってくる12月中旬までにザータリキャンプのすべての家庭に暖かい服が届けられる予定です。
【JENでは、皆様からのご寄付を受け付けています。ご協力をよろしくお願いします。 ご寄付は、こちらから受け付けております】
ザータリ難民キャンプ開設直後の2012年9月よりザータリ難民キャンプで支援業務に従事して参りましたが、この度、任期を終え帰国することになりました。
思い返せば昨年の9月初めてザータリキャンプを訪れた時には、まだ道路やトイレも整備が始まったばかりで、砂漠のど真ん中にテントが点在しているだけでした。初めて訪れたザータリキャンプでは、着の身着のままシリアから逃げてきた難民が、風が吹くたびに砂塵が舞う中で生活をしており、砂漠のキャンプでの生活の過酷さを肌で感じました。
それからの1年強の間にテントが仮設住宅へと変わり(現在は住民の約8割以上が仮設住宅で生活しています)アスファルト舗装の道路が整備され、学校や病院も建設され、“シャンゼリゼ”や“五番街(フィフスアベニュー)”と呼ばれる2キロにも渡る商店街も自然発生しました。シャンゼリゼは数軒の八百屋や香水屋(入浴があまりできないため)からスタートしましたが、今では生肉や電化製品、ドネルケバブ屋さんまでありとあらゆるものが売買されており、厳しい環境の中でも自立した生活を送る人々の姿を目にしました。
ザータリキャンプ内の整備が進む中で、キャンプ内の格差が広がっているのも現実です。仮設住宅をいくつも並べて中庭に噴水を設置したり、家電製品を揃えたりとアンマンなどと変わらない生活環境を整えている人々が見えるようになりました。その一方で、支援団体からの支援に頼りながらキャンプ内で生活をしている人々がまだまだ多くいるのも事実です。特にザータリ難民キャンプでは18歳以下の子どもがキャンプ人口の5割以上を占めており、障害者や女性家長の家も多く、こうした社会的に脆弱な人々に確実に支援を届けていくのが緊急に取り組むべき、大きな課題となっています。
末筆になりますが、これまで至らぬところも多々あったかとは思いますが、微力ながらザータリ難民キャンプの現状をお伝えしてまいりました。シリア情勢が不透明な中、シリア難民のヨルダンでの生活がますます長期化することも十分に想定されます。まだまだ、支援は必要です。これまでの皆様からの温かいご支援に深く感謝いたしますとともに、今後ともより一層ご支援を賜りますよう、宜しくお願い申し上げます。
【一緒に頑張ってきたJENスタッフとともに】(写真提供:菱田雄介)
JEN アンマンオフィス
プログラムオフィサー (ザータリ難民キャンプ担当)
佐々木 弘志
【JENでは、皆様からのご寄付を受け付けています。ご協力をよろしくお願いします。 ご寄付は、こちらから受け付けております】
現在、ヨルダンのシリア難民の約77%がキャンプの外、ホスト・コミュニティで暮らしており、教育や病院などヨルダン政府が提供する公共サービスの恩恵を受けています。
前学期までヨルダンの公立学校に通うシリア難民児童は約3万人程度でしたが、新学期が始まった9月には約7万人にまで増加しています。それでも、まだ5万人のシリア難民児童が学校に通っていないと言われており、シリアの子どもたちの学校へのアクセス向上、そして生徒数の増加により学習環境が悪化している学校に対する支援は、支援団体の大きな課題です。
そのような中、JENはホスト・コミュニティのヨルダン公立学校において水衛生関連施設の補修および衛生教育事業を行っています。衛生教育は補修工事の完了した学校で行います。まず教員向けの衛生教育トレーニングを実施した後、トレーニングを受けた教員が生徒に対して衛生授業を行う、という形で取り組んでいます。
先週、ザルカ県の対象校で生徒向けの衛生授業が行われました。授業の内容は、衛生教育トレーニングの際に様々な手法を教員に説明するとともに、教員とのディスカッションを通じて、各学校、各学年の状況に応じたものに発展させていきます。
このクラスでは、コレラに焦点をおいて授業が行われました。まず、生徒によるロールプレイから始まりました。不衛生な屋台でお菓子を買い食いした子どもが、腹痛を訴え病院に行くというストーリーです。屋台の売り子役の生徒は顔にひげを描いていたり、医者役の生徒はコレラ菌を顕微鏡で確かめたりと、とても本格的なロールプレイでした。
【役になりきって演じる女子生徒】
そのあと、グループに分かれて、各グループがコレラの原因、症状、予防策、治療方法などを模造紙にまとめ、みんなでディスカッションをしました。こういった衛生に関連する伝染病について、緊急時に備えて知識を持ち、注意しておくことはとても大切なことです。子どもたちが学校で学んだ衛生の知識は、家族、そしてコミュニティへと広がっていきます。 衛生授業の最後には、クラス全員で水飲み場に行き、正しい手洗いの方法を実践しました。
【正しい手洗い方法を実践する生徒たち(3番目の生徒はロールプレイで売り子役だった子で、まだ顔にひげのペイントをしたままです)】
この水飲み場は以前は使用できない状態でしたが、JENが補修をして今は使えるようになっています。水飲み場には節水を呼びかけるメッセージが書かれていました。このクラスの生徒たちが少しずつお金を出し合って、ペンキを買い、このメッセージを書いたそうです。 この学校では、JENの水衛生補修と衛生教育を受け、各クラスが学校の衛生環境を向上する試みを自分たちで考えて実行するというキャンペーンを行っており、他のクラスの生徒はごみ箱を購入して、学校に設置したそうです。
【生徒たちが書いた節水をよびかけるメッセージ】
学校の衛生環境の改善は、JENが学校補修を行い、衛生教育をするだけで終わるものではありません。JENの活動に刺激を受けて、校長や先生たち、そして子どもたちが、より良い学校になるようさらに自分たちでできることをする、そういった持続的な取り組みを促すことが重要であると考えています。
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